女子力高めおっさん

午前8時の地下鉄内、今日もバンバン駆け込んでくるなあなんて思っていたら、目の前に中年と思われる(顔は見えなかった)男性が一人身をねじりにねじってねじり込んできた。

体を支えるために扉についた左手薬指になんとなく目がいく。ずいぶんとアルミ感の強い結婚指輪だなあと見ていたらスマホのストラップだった。なぜ左手の薬指?この人は左利きなのか、はたまたスマホラブのスマホと赤い糸(白いひも)で結ばれたい系おっさんなのか、なんて考えてぎうぎうの満員電車で暇つぶし。

まあそうなると、後者を考えたほうが断然面白いわけで。ちょうどおっさんの横にキラキラ女子が好きそうなコスメ広告が貼られていて、おっさん越しにその広告を眺めていたら、なんだかおっさんの顔にものすごく興味が湧いてくる。

よく見れば整えられてぴかぴかの爪、指毛もない、いやそれだけなんだけど、そこらじゅうにいる普通のおっさんなんだろうけど、

どうしよう、わたしの妄想が止まらない。

このおっさんはわたしより女子力が高くて、休日にはアイラインなんかひいちゃって、今私からは見えないおっさんの顔もコスメ広告を全力でガン見してて「あ、新作出たんだ、買ってみようかな〜ぁ」なんて考えたりしてて、実はスカートが履きたくて購入はしたんだけど(中がわからないように梱包してくれるオンライン通販で頼んだはず)なかなか勇気が出ずにタンスの奥にこっそりしまているんじゃないか、とか

もう考え出したら止まらない。

しかも考えてる間に、私のプレイリストは青山テルマのそばにいるよを流すファインプレー。(この前のこんくらでやってた青山テルマが面白すぎてプレイリストに追加した)

私のプレイリスト空気読み具合。

もうここまできたら願いはただ一つ。

 

おっさん、こっちを向いてくれ!

 

予想を裏切らないつけまつ毛ばさばさのお目目でずっとおっさんの後頭部を見つめる怪しい私を怪訝そうな表情で見つめてくれ。

 

そしてその時は突然訪れた。六本木駅に到着したとき、ドア付近にいたおっさんはまだ目的地には付いていないようで、後ろから来るフライング降車ぎみの人の圧力で一度後ろを振り返った。

 

おっさん、ごめん。

ごめんなさい。

すげー普通のおっさんだった。

当たり前だった。

そんな暇つぶしをした金曜日の出勤時間。